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東京地方裁判所 昭和42年(手ワ)6193号 判決 1968年2月22日

原告 河井光弘こと 河秀台

右訴訟代理人弁護士 野口敬二郎

被告 新井基裕

右訴訟代理人弁護士 別府祐六

主文

被告は、原告に対し金六〇万円、及び内金三〇万円に対する昭和四二年八月三日から、内金三〇万円に対する昭和四二年八月一七日から、各完済までの年六分の金銭を支払わなければならない。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮りに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一、二項と同旨の判決を求め請求の原因として、

一、原告は別紙手形目録記載の手形二通の所持人である。

二、原告は右手形をそれぞれ支払期日に支払場所に呈示して支払を求めたが、いずれも支払を拒絶された。

三、よって原告は被告に対し請求の趣旨のとおりの支払を求めるものである。

被告主張の各抗弁事実を否認する。

と述べ(た。)

立証≪省略≫

被告訴訟代理人は、

本案前の抗弁として、

原告は実在の人格者ではないから、訴却下の判決を求める。

と述べ

本案についての答弁および抗弁として、

本件各手形の振出の事実は認める。呈示の事実は不知、第一被裏書人が原告であることは否認する。本件手形の第一裏書人は、同栄信用金庫であって、右信用金庫から原告宛に裏書譲渡した記載のない本件手形は裏書の連続を欠くもので原告は正当な所持人ではない。次に本件手形は河秀台によって詐取されたものである。即ち、本件手形は、被告が訴外藤田照明の懇請により金融を得させるため、同訴外人に交付したものである。同訴外人は本件手形を含め他の手形と共に訴外同栄信用金庫から二一五万円の割引を受けたが同訴外人は同訴外人が同信用金庫に対し有した当座預金一、七五七、〇〇〇円と差引き三九三、〇〇〇円の債務を残して死亡した。

これを知った河秀台は、藤田照明の妻有藤英子に右三九三、〇〇〇円を右信用金庫に立替てやると申し向け三九三、〇〇〇円を右信用金庫に払込むと引替に前述の他の手形と共に本件手形を騙取した。従って原告は本件手形の正当な権利者ではない。

仮りに右主張が認められないとしても、本来本件手形は融通手形であるから振出人たる被告に返還されるべきところ、河秀台は同人が右信用金庫に払込んだ立替分があるとしてこれを被告に返還しない。そこで被告は本件手形の返還を求めて右河秀台に同人の右立替分についてそれ以上の五七五、〇〇〇円を支払った。にも拘らず原告は本件手形を被告に返還しないものである。

と述べ(た。)

立証≪省略≫

理由

一、(訴状の訂正について)

原告は本件訴状において、原告を河井光弘と表示し、その後口頭弁論期日において右表示を河井光弘こと河秀台と補充訂正をなす旨述べ、被告は右訂正に対し異議を述べたが、≪証拠省略≫によれば、河秀台と河井光弘は同一人であることが認められるから、被告の右異議は理由がない。

二、(本案前の抗弁について)

≪証拠省略≫によれば、河井光弘は河秀台と同一人であって実在することが認められるから、被告の抗弁は理由がない。

三、(本案について)

(一)  原告の請求原因事実のうち、裏書の連続と呈示の各点のほかは当事者間に争いがない。

(二)  原告の所持する本件各手形によれば、いずれもその受取人欄には藤田電気商会、第一裏書欄には、被裏書人欄の同栄信用金庫の記載が抹消されて、右受取人から河井光弘に対する裏書の記載があることが認められ、裏書の連続の有無の関係においては抹消された記載は記載なきものと認むべきであるから、右各手形の裏書の記載はいずれも連続しているというべきである。

また、右各手形によれば、原告主張の呈示の事実を認めることができる。

(三)  被告の抗弁事実については、いずれもこれを認めるにたる証拠はない。

四、よって、原告の本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大見鈴次)

<以下省略>

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